保育園への補助金は、運営や設備資金の一部を給付するもので、保育園経営者であればどなたでも申請・活用されているでしょう。
ここでは、数ある補助金のなかでも、2023年度に新たに見直されたもの、そして2024年度から改定もしくは拡充されることが決定したもののうち、保育園運営に直接関係する制度をピックアップします。
今まで対象外だったものが拡充により申請可能になっていたり、過去に給付されたものが更新可能になっていたりなど、新たに給付対象となる可能性もありますので、見逃さないように気をつけましょう。
市区町村が策定する整備計画などにもとづき、保育園・認定こども園・小規模保育事業所で、「施設整備事業」や「防音壁設置の実施」を行なった際の交付金です。
認定こども園に対する施設整備費の一元化が行なわれました。
これまで、認定こども園の場合は幼稚園機能部分と保育所機能部分に分割して3パターンの交付金申請が必要でしたが、こども家庭庁の管轄により「就学前教育・保育施設整備交付金」として一括されました。
保育園、幼保連携型認定こども園において、清掃業務や遊具の消毒、給食の配膳、寝具の用意、片付け、外国人の子どもの保護者とのやりとりにかかる通訳など、保育に関わる周辺業務を行なう保育支援者を雇用する際の支援です。
園外活動時における園児の見落としなどによる事故を防止するため、園外活動時の見守りを行なう保育支援者を配置する場合の補助の対象施設が拡充され、以下の施設が追加されました。
日常生活における基本的な習慣などに特別な配慮が必要な家庭や、外国人子育て家庭について、家庭環境に対してなど保育上で特に配慮が必要な家庭における子どもを全体の40%以上受け入れている保育園に対して、保育士の加配を行なう施策です。
現行の要件に加え、「外国人割合20%以上」という要件のみ満たす保育園も保育士の加配対象に追加されます。
また、保育士以外の職員として、受け入れる外国人家庭の文化・慣習等に精通した方など、外国人家庭に対する支援を適切に実施できる職員配置を可能とします(非常勤も可)
保育園などにおいて、障がい児を受け入れるために必要な改修や病児保育事業を実施するために必要な設備の整備費用の一部が支援されます。
既存の項目に加えて、以下の費用が新たに追加されました。
保育の周辺業務や補助業務におけるICTなどを活用した業務システムの導入を支援します。
2023年から、システム導入費用の補助を受けてから一定期間が経過した施設を対象に、システム更新にかかる費用が新たに補助されることになりました(1施設当たり20万円)。
また、登園管理システムの整備については、2023年度末までの期限付き措置として補助率の嵩上げが行なわれています。
2024年度からは、実費徴収や延長保育などの費用徴収にあたってのキャッシュレス決済の導入費用、医療的ケア児とのコミュニケーションツールとなるICT機器も新たに補助対象になります。
保育園などにおける保育士の業務負担を軽減し、保育士の離職防止をはかることを目的として、保育士の補助を行なう保育補助者の雇用に必要な費用が補助されます。
ブランクや経験不足が理由で職場復帰できない潜在保育士が、まずは保育補助者として勤務しながら段階的に保育士として復帰できる体制をつくるための支援として、補助の内容が改定されました。
医療的ケアを必要とする園児の受け入れ体制整備のため、保育園における看護師の配置、保育士の喀たん吸引などにかかる研修受講にあたっての支援です。
医療的ケア児の災害対策として、停電時における安全・確実な電源確保などの備品に対する補助を行ないます。
また、医療的ケア児を受け入れるにあたっての研修の受講支援は、それぞれ単独で国庫補助の対象になるよう運用改善を図るとのことです。
育児休業終了後の入園予約の仕組みを設け、職場復帰に向けた保育園入園時期に関する保護者の不安を解消するための支援です。
慣らし保育等で育休の切り上げを希望する保護者に対する一時預かり事業の利用料支援が、1年の育休取得後に限定されないよう対象が拡充されます。
また、出産を機に退職した後、こどもが満1歳を迎えて翌4月までに、再就職のために保育園への入所を希望する保護者に対応するための職員配置に対しても支援されます。
保育人材の確保は、安定経営の一丁目一番地とも言えます。
求人募集にあたっては、ハローワークや求人サイトへの出稿、保育士限定の就職・転職フェアへの参加やエージェントの活用、指定保育士養成施設との連携による新卒採用などが主な採用ルートのようです。
そのうえで、採用について、また職員の定着についての課題を見直してみましょう。
併せて解決の糸口も紹介します。
保育士採用にあたっては、より若い層に目が行きがちな採用担当者が多いようです。
特に新卒や経験が浅い第二新卒などは、理想と職場とのギャップに慣れておらず離職率が高い傾向にあるだけでなく、少子化による絶対数の減少も懸念されます。
まずは、即戦力かつ定着力の高い中高年層の採用拡大、また社会経験や子育て経験のある潜在保育士の揺り起こしにも目を向けてみましょう。
また、卒園児の保護者採用も事例として多く聞かれます。通園児の保護者とのコミュニケーションの円滑化など、育児経験者や定年退職者の採用は、保育の質向上の観点からもプラスであると考えられるようです。
先述したように、求人サイトや転職エージェントなどでコストをかけすぎて、採用自体がおろそかになってしまっては本末転倒といえるでしょう。
無理のない範囲で、自治体などによる公的サービスとの併用も検討しましょう。
近年行なわれている待機児童解消施策のため、都市部では家賃補助など給与面での魅力が高まりました。それが引き金となり、保育士の都市部への集中現象が起きています。
対策として、都道府県ごとにある保育士・保育園支援センターを一元化することで、全国を対象に求人・応募ができるシステムを実装し、採用活動を広域化する取り組みが求められます。
勤務者にとって安定や高収入・好待遇を得られる公立園には入職希望者が多く集まる傾向があり、人材不足は、私立園に顕著な問題であると言われています。
そのような中で私立園ができることは、保育士の長期就労の土台となる園独自のキャリアパスを明確に構築し、若手からベテランまで多くの保育士にその機会を与えることではないでしょうか。
保育士にとって、長期勤務がキャリアアップにつながること、またそれが昇給や役職を手にできるルートとして認識できることで不安は払拭され、職務へのモチベーションが生まれます。
2022年に公布された「児童福祉法等の一部を改正する法律」(令和4年法律第66号)により、児童に性暴力等を行った保育士について、登録取消しや再登録の制限など、保育士資格の欠格についての法整備がより厳格に規定されました。
欠格事由に該当した保育士については、自治体が本人および勤務先・市町村などに情報提供を求めたり、裁判の傍聴をしたりすることで状況の把握に努めることが想定されています。
しかし、それらは完全な対応とはならず、該当者の登録取り消し漏れが生じることで、事件やトラブルの火種となる事態も起こっています。
このため、政府によって現在検討中のままの「日本版DBS」など制度の徹底による、問題のない男性保育士の安定雇用が進むことも、今後の命題のひとつといえます。
出典:児童生徒性暴力等を行った保育士の資格管理の厳格化について/厚生労働省
保育士の業務負担の多さは、時に離職率を上げるだけでなく、保育の質低下やトラブルの遠因となるケースも多々見られます。
運営する側は、保育補助者や事務員の雇用による業務分担、またICTやアプリの導入などで、積極的に保育士の負担軽減に取り組む必要に迫られていると言えるでしょう。
園児募集の面において、広報の観点から考えます。
この課題で必要となってくる基本軸は「多園との差別化」と「自園のブランディング」です。まずは保護者のペルソナ設定、ターゲティングから始めるのがよいでしょう。
立地による地域の特性や保護者の年齢層・生活スタイルにおけるボリュームゾーンの分析を行なうことで、利用者のニーズを把握します。
また、園独自の個性や保育環境、理念にもとづく取り組み、新しく導入しているサービスといったアピールポイントも洗い出します。
そのうえで、それらが現状の広報プランや実際の保護者のニーズと齟齬がないかを確認し、広報材料としてのすりあわせを行ないます。
これらを確立することが、多園との差別化、そして自園のブランディングの基盤となります。
保育園経営の基本でもある「補助金申請を取りこぼさない」、「保育士人材の採用と定着の課題をセットで解決する」、「差別化とブランディングを軸に広報を見直す」を、3つの極意として提案しました。
保育園経営におけるさまざまな課題は、どれも一筋縄ではいかないものばかりですが、広く多角的な視野で課題解決に向かって進んでいけるとよいですね。
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