保育園が抱える問題のなかでも、近年深刻とされているのが園児の定員割れ。原因として、待機児童解消施策の成果や歯止めのかからない少子化だけでなく、複合的な要因が絡んでいる現状が見えてきました。ここでは、現在の保育園の定員割れについて現状を改めて確認しながら、国の施策や保育園ができる対策についてまとめました。
2016年前後から社会問題となっていた待機児童でしたが、近年は以前ほど耳にすることもなくなりました。これは、待機児童問題が解消しているという側面だけでなく、新たな問題にもつながっていることを示しているようです。
その新たな問題が、「保育園の定員割れ問題」です。
この問題は、地域や園によって同じ「定員割れ」でも、その要因はそれぞれ違うこと、また場合によっては複数の要因によって作り出されていることが見えてきました。
ここからは、保育園の定員割れの現状を見ていきましょう。
都道府県のなかでも、保育の需要が大きい県庁所在地や政令市など103自治体で運営されている保育施設のうち、約4割が2023年4月入園児の第一次選考の時点で定員割れが起きていました。
以下の表を参照しても、緩やかな下降ではありますが、全国的に保育園の定員充足率は減少傾向にあることが分かります。
令和2年4月 | 令和3年4月 | 令和4年4月 | 令和5年4月 | |
全国 | 92.2% | 90.9% | 89.7% | 89.1% |
申込園児数を年齢別に見ると、0歳児および3歳以上児が減少傾向にあります。なかでも0歳児が大幅に減少しているようです。
また、1・2歳児については2023年度は増加に転じましたが、2021・22年度と2年連続で減少していたことも分かっており、今後の傾向が注目されます。
このような定員割れの原因には、以下のようなことが考えられています。
就学前人口の減少は、出生数の低下と強い相関関係にあります。出生数は2022年に1899年の統計開始以来、初めて80万人を割り込みました。
今後もこの状況が続くことで、0歳児の絶対数が減少していくことが予測されています。
上記の要因に関しては、それぞれ異なった性質・発生源を持っていますが、定員割れを起こしている保育園は、このいずれか、もしくは複数があてはまると見られます。
政府が2024年度末までに解消する目標を掲げていた待機児童数問題。ここ5年は連続で過去最少を更新し、2023年にはピーク時の1割にまで減少しました。
なお、統計によれば、全国の市区町村(1,741)のうち、約86.7%の市区町村(1,510)において、2023年の待機児童は0人。「解消済み」「23年度中に解消見込み」とした自治体も含めると約80%にのぼりました。
そんな待機児童問題ですが、決して手放しで喜べる状況ではないでしょう。保育園の定員割れが起きている背景には、以下のような問題点も浮上しています。
2023年時点で解消されていない待機児童は、首都圏・近畿圏(京都・大阪・兵庫)などの7都府県の都市部に多く見られる状況にあります。
待機児童数が一極集中の傾向にあり、上記の7都府県の都市部だけで全体の約6割(1,622人)を占めているのが現状です。
これにより、定員割れを起こしている地域とのあいだに大きなギャップが生じていることが読みとれます。
待機児童にカウントされない「隠れ待機児童」の存在をご存じでしょうか。じわじわと増加傾向にあるこの現象は、2023年には6万人を超えていると言われてます。
これは、保護者が希望する園に入園できなかった際に、他園にあえて入園せず待機を選択するといった状態のことを指します。
人気の園とそうでない園で入園希望に偏りが生じ、隣接園でも片方は待機児童がいる園、片方は定員割れを起こしている園といった状況が生まれる要因ともなっています。
この隠れ待機児童は、統計上は待機児童としてカウントされないことから、実態把握が難しい面があります。実際の需要と保育環境の整備にズレが生じていることが課題であると言われています。
2024年までの4年間で約14万人分の保育施設を増やす計画として政府が打ち出した「新子育て安心プラン」は、今後も継続される予定です。
現状としては、2021・22年で2.8万人分の受け皿拡大実績をつくり、2023年も4.6万人、2024年に1.2万人拡大見込みが公表されています。
プランの内容として、「地域の特性に応じた支援」「地域のあらゆる子育て資源の活用」も打ちだされていますが、定員割れの偏在を見ても、実情とニーズに即した改善策となっているかは疑問が付されるところでしょう。今後さらなる改善の余地があるかもしれません。
出典:保育所等関連状況取りまとめ(令和5年4月1日)及び「新子育て安心プラン」集計結果を公表/こども家庭庁
定員割れ地域に対する国の施策には、以下のようなものがあります。
- 保育所が引き続き地域の子育て支援に役割を果たすことができるよう、空きスペースを活用するなどにより多機能化を図る
- 現行の保育所等整備交付金の見直し。空きスペースの再利用など保育所が地域の子育て支援に必要な設備の整備を行う際の支援を検討
- 利用定員の適切な見直し、それによる公定価格の在り方を検討
- 既存の保育所等の統廃合・規模縮小、公立・私立保育所等の役割分担、認定こども園への移行
定員割れ地域に対する国の施策には、以下のようなものがあります。
しかしこれは、隠れ待機児童や保育士不足の対策にはおよばないこと、統廃合や規模縮小などを念頭においていることから、園の運営にとって必ずしも追い風とは言えないことも課題でしょう。
iStock/Edwin Tan
ここからは、保育園を運営する側が定員割れ解消に向けて取り組める対策を紹介します。
保育園の運営にあたってもっとも重要視される項目のひとつが「保育の質」向上ではないでしょうか。
しかし、高い保育の質を維持しても、それが保護者や地域に認知されなくては問題の解決には至りません。そのためには目に見えるサービスの導入も必要です。
具体的には、おむつや着替え類のサブスクリプションサービス、日常保育やイベント写真のオンライン閲覧・購入ツール、ICTによる園内のセキュリティ強化や連絡帳アプリなどの活用などが挙げられます。
保護者のニーズに応えるサービスの導入をアピールしながら他園との差別化をはかることで、隠れ待機児童になる層のセカンドチョイスを狙うことも視野に入れましょう。
保育の質を高めるためには、まず余裕のある人員配置、つまり保育人材の確保が急務でしょう。
自治体の保育人材マッチング事業、民間の求人サービスやエージェントを活用して即戦力を採用することが求められますが、その先には離職を防ぐ対策を講じることも大事な視点です。
保育士の離職を防ぐ対策は、長い目で見れば余裕のある保育環境、働きやすい職場環境につながります。これらの要素なしに質の高い保育の実現は難しいでしょう。
そのためには、保育補助や潜在保育士の雇用で人材に余裕を持たせること、事務や雑務などのICT化やアウトソーシングで働き方の改善を目指すことも必要ではないでしょうか。
0歳児~3歳児までなど園児の制限を行なっている園に関しては、出生数の低下を鑑みても、入園可能年齢の拡充は対策として有効でしょう。
また、地域社会への貢献という観点からも、定員割れへの対策としても、障がい児や医療ケア児の受け入れを行なうのも有意義な取り組みとなるのではないでしょうか。
これらの対策とあわせ、病児保育の併設・看護師の雇用なども視野に入れることで、入園対象からこぼれがちな子どもたちの受け皿となる体制づくりが整うことが見込まれます。
定員割れを起こしている保育園での空きスペースの利活用や、園や保育士のノウハウを活かしながら地域で子育て支援を実施するなど、国や自治体の施策をチェックしてみましょう。
うまくマッチングする設備や人材があれば、連携することで保育所の多機能化を進める新しい取り組みとなるでしょう。今後の新しい園経営のスタンダードとなる可能性もあります。
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もうひとつの広報として、SNSの活用があります。
これは、できるだけ手軽に園の様子をこまめに発信することで、イメージ戦略と保育の内容を広報することにつながります。
サイトやブログの更新など保育士の残業の原因となる業務に比べて、手軽かつ閲覧数が圧倒的に増えることも大きなポイントです。アウトソーシングも可能ですので活用してみましょう。
保育園を運営していくなかでも特に直面したくない、園児の定員割れ問題について考えてきました。
すぐに改善に転じることは難しいかもしれませんが、国の施策と園独自の工夫をバランスよく取り入れることで、今後、巻き返しをはかれる可能性は十分あるでしょう。
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