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保育の質とは?厚生労働省が定めた「3つの観点」の基準・ガイドラインを知ろう
保育園を経営する方であれば「保育の質」の確保と向上の重要性、そして難しさもすでにご存じかもしれません。この保育の質を高めるため、厚生労働省が定めた「3つの観点」と、それについてガイドラインや基準が設けられています。今回は、活用することで保育の質向上が期待できる3つの観点と、項目ごとのガイドライン・基準について解説します。
「保育の質」とは?
そもそも保育の質とは、なにを指標とすればよいのでしょうか。
厚生労働省が実施した「保育所等における保育の質の確保・向上に関する検討会」の配布資料によれば、保育の質については「一元的に定義することができない」としながらも、以下のように記述されています。
包括的定義 「子どもたちが心身ともに満たされ、豊かに生きていくことを支える環境や経験」 |
上記の包括的定義にもとづき、保育の質に関しては「内容」「環境」「人材」の3つの観点を整えることが必要であるとされ、各観点に基準やガイドラインが定められました。
この基準・ガイドラインが関係者に周知・遵守されることが、保育の質の確保と向上に資するとされています。
次からは、この3つの観点と、それぞれの基準・ガイドラインについて解説します。
出典:保育所等における保育の質の確保・向上に関する検討会/厚生労働省
保育の質の3つの観点:内容
保育の「内容」面で、いかに質をあげるかという観点については、以下のガイドラインを参照することが推奨されています。
保育所保育指針
「保育所保育指針」は、保育に関する基本的な内容や運営について厚生労働省が定めたものです。
約10年に1度のペースで見直し・改訂が行なわれており、現在の最新版は2018年4月から適用されているものになります。
社会情勢の変化と文部科学省の中央教育審議会による「幼稚園教育要領」の改訂を鑑みて改訂がなされた最新版は、幼保施設によって子どもの成長に差が出ないように、幼児教育全体の共通認識が明記されました。
また、0歳児から2歳児までの保育について育みたい領域も明確化されています。
自己評価ガイドライン
「保育所保育指針」において、保育士および保育園が自己評価を作成することが努力義務化されています。この評価基準となるのが、「保育所における自己評価ガイドライン」です。
自己評価の実施については、以下の意義があるとされています。
- 保育士の子どもに対する理解が深まり、保育を改善・充実するための課題や方策が明確化される
- 職員全体で取り組むなかで、保育園の課題への共通認識が深まり、職員の協働性が高まる
- 継続的に自己評価に取り組むことで、保育および保護者支援の専門性が高まる
また、自己評価の結果の公表も努力義務とされています。
ガイドラインによれば、「自己評価の結果や保育の改善に向けて取り組む過程などを、保護者や地域住民などに伝えることにより、保育所の施設運営の透明性を高め、保護者等からの信頼を得る」ことが期待されています。
第三者評価ガイドライン
ここで取り上げている「第三者評価」は、公正かつ中立な第三者機関が、専門的・客観的な立場から保育園の運営体制や保育内容を評価し、公表する制度です。
保育園だけでなくすべての福祉施設・事業所に共通する「共通評価基準ガイドライン」として策定されており、それに準じて第三者評価が行なわれます。
「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」によれば、保育園だけでなく幼稚園・認定こども園・地域型保育事業は、定期的に外部の第三者による評価を受けて、それらの結果を公表し、常にその改善に努めなければならないとされています。
出典:児童福祉施設の設備及び運営に関する基準/e-Gov法令検索
保育の質の3つの観点:環境
iStock.com/kot63
保育士の人員配置や施設面積など、子どもが安心・安全に生活を送ることができる環境の確保と維持における最低基準や、感染症・アレルギー・事故対策も、この「環境」に含まれます。
設備運営にかかる最低基準の制定
児童福祉法で定められた「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」では、保育園の面積などを含む建築基準、屋内外の階段や調理室やトイレなどの屋内施設、防災設備などについても細かい基準が定められています。
また、保育士をはじめとした職員の人員配置、調理員の人数や有無についても、守らねばならない最低基準が設けられており、保育の質に資する基本とされています。
出典:児童福祉施設の設備及び運営に関する基準/e-Gov法令検索
感染症対策ガイドライン
厚生労働省が定めた「保育所における感染症対策ガイドライン」は、乳幼児期の特性を踏まえた感染症対策の基本を示し、保育士が医療関係者や関係機関と連携しながら感染症対策に取り組むためのものです。
内容は、以下の4項目から成り立っています。
【1】感染症に関する基本的事項
【2】感染症の予防
【3】感染症の疑い時・発生時の対応
【4】感染症対策の実施体制
また別添資料として「個別の感染症ごとの症状、予防・治療方法、感染拡大防止策等」「保育所における消毒の種類と方法」「発熱や嘔吐等、症状に応じた具体的な対応方法」なども項目化され、保育の現場で指標となる幅広い感染症対策となっています。
出典:保育所における感染症対策ガイドライン(2018年改訂版)/こども家庭庁
アレルギー対応ガイドライン
食だけでなくさまざまな要因で発生するアレルギーに対しては、厚生労働省が「保育所におけるアレルギー対応ガイドライン」を示しています。
本ガイドラインでは以下のような項目が立てられ、アレルギーへの生活管理指導やアナフィラキシー発生時の対応などもガイドされています。
- 保育所におけるアレルギー疾患の実態
- アレルギー疾患各論
- 食物アレルギーへの対応
このガイドラインのより効果的な活用に向けては、ガイドラインの周知徹底、使いやすくするためのQ&A項目の作成や、研修体制の強化なども推奨されています。
出典:保育所におけるアレルギー対応ガイドライン(2019年改訂版)/厚生労働省
事故防止及び事故発生対応ガイドライン
厚生労働省による「教育・保育施設等における重大事故の再発防止策に関する検討会」をもとに取りまとめられたガイドラインは、地方自治体を中心に通知されています。
「重大事故の再発防止のための事後的な検証について」という項目では、事故発生後の再発防止に向けた検証における、対象範囲、検証方法、検証委員の設置、報告の定めが明確化されています。
また、それに続く「事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」の項目では、以下の内容が追加されています。
- 事故防止のための取組み~施設・事業者向け~
重大事故が発生しやすい場面(睡眠中、プール活動・水遊び、食事中)ごとの注意事項
事故防止のための研修等による体制づくり
- 事故防止のための取組み~地方自治体向け~
地方自治体、施設・事業者との連携体制の整備
施設・事業者に対する研修や指導監査等の実施
- 事故発生時の対応~施設・事業者、地方自治体共通~
事故発生時の段階的な対応(事故発生直後、事故直後以降、状況の記録、保護者等への対応、
報道機関への対応、国への事故報告、検証の実施)
このように、事故の予防・防止策から発生時の対応、事後の検証と報告を含めた包括的なガイドラインとなっています。
出典:重大事故の再発防止のための検証と事故防止等のためのガイドライン/厚生労働省
保育の質の3つの観点:人材
iStock.com/koumaru
保育士をはじめとした、保育に携わる職員の採用・人材育成も保育の質に直結する観点です。
資格取得に関わるガイドライン、入職後のキャリアアップ、保育の情報公開と第三者による監査によって、あらゆる角度から保育の質を守り、高めるものと言えるでしょう。
保育士資格にかかる基準の制定
保育士の資格取得にまつわる「指定保育士養成施設指定基準」「保育士試験実施要領」の2つの基準がこれにあたります。
「指定保育士養成施設指定基準」は、保育士資格取得に関わる指定養成施設の教員・定員・教育課程・施設設備などが細かく規定され、「保育士試験実施要領」では、指定養成施設以外で学んだのちに保育士資格を取得する際の試験について制定されています。
いずれも、人が担う保育の根幹を形成するものとして、質の確保には欠かせないものであることは間違いないでしょう。
出典:指定保育士養成施設の指定及び運営の基準について[改正後全文]/一般社団法人 全国保育士養成協議会
キャリアアップ研修ガイドライン
「保育士等キャリアアップ研修ガイドライン」は、保育現場におけるリーダー的職員の育成に関する研修についてのガイドラインです。
初任後から中堅までの職員が、多様な課題への対応や若手の指導などの役割を担う「副主任保育士」「専門リーダー」「職務分野別リーダー」へキャリアアップするための研修について定められ、研修内容と成果が一定の水準を確保できるように、内容や実施方法などが制定されています。
このようなキャリアアップの仕組みを構築することで、職員がいち保育士としてだけでなく、リーダー職としてマネジメント能力を習得し、職場環境の改善にもつながることが期待されます。
またキャリア形成による処遇改善にもつながっています。
出典:東京都保育士等キャリアアップ研修に関すること/東京都福祉局
保育所等における情報公開
保育園は、開所時間や利用定員などの保育情報を都道府県へ報告する義務があり、報告を受けた都道府県はその内容を公表しなくてはいけません。
これは、子ども・子育て支援法、児童福祉法において定められています。
これは、保護者の保育を受けさせる機会を適切かつ円滑に確保するための基準で、具体的な報告事項としては、以下のようなものが挙げられています。
- 運営法人に関する事項
- 施設等に関する事項
- 従業者に関する事項
- 教育・保育等の内容に関する事項
- 利用料等に関する事項
- その他都道府県知事が必要と認める事項
これにとどまらず、児童福祉法により都道府県には年1回以上、保育園などに実地監査を行なう義務が課されています。「保育所等に対する行政指導監査の実施」として具体的な監査事項が定められています。
出典:児童福祉行政指導監査の実施について(通知)/厚生労働省
ガイドライン・基準を再確認して保育の質を高めよう
「保育の質」と言えば、一見あいまいな主観にもとづくものにとられることもあるかもしれません。しかし、さまざまな角度から保育の質を担保し向上させるためのガイドラインや基準が、明確に設けられています。
保育の質を支える3つの観点「内容」「環境」「人材」について、いま一度改めてガイドラインなどをチェックしながら、自園が提供する保育の質について考えてみるのもよいかもしれません。
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